長谷川孝のブログマガジン

【武将】第15話 適材適所

桔梗信玄餅というお菓子をご存知か?開発当初は売れるわけがないと同業者にバカにされたそうじゃが、今ではあちらこちらでよく見かける、押しも押されぬ山梨土産になっておる。工場直売所の詰め放題販売も大人気だそうじゃな。

世の中何が売れるか分からんものじゃ。

たとえ多くの者に揶揄されようと、やってみぬことには結果は出ぬ。やる前からあきらめては何も生まれぬ。やらぬ後悔とやった後悔。同じ後悔ならやった後悔をしようではないか。

そのほうが人間としても大いに成長できようて。

さて、この桔梗信玄餅がなぜ信玄と名付けられておるのか。山梨県と言えば武田信玄という結びつきかの、やはり。

その武田信玄殿の話じゃが、家中に戦でまったく役に立たない臆病者でどうしようもない家臣がおったそうじゃ。あんな役立たずは今すぐ放逐すべきだという声が信玄殿のもとに届くぐらいにの。

たとえば「彼は営業のくせに人と話をするのが苦手で、しかも自分から周りに話しかけようとする勇気も努力もなく、今まで契約ひとつ取ってきたことがありません。まったく役に立ちませんので今すぐクビにしたほうが良いと思います」とその者の上司から貴殿に報告があるようなものじゃ。さて貴殿はどうなさる?

信玄殿はこの臆病者でどうしようもない家臣をクビにはせず、隠れ目付という仕事を与えたそうじゃ。すなわち、家中に不穏な動きがないか、不満の声が出ていないかなど、どんな些細なことでも良いから情報を集めて信玄殿に報告するという、いわば組織内諜報員のような役目じゃな。

信玄殿は「どんな些細なことでも報告せよ。少しでも隠しごとをしていることが判明すれば即、厳罰に処す」と申し渡してこの家臣に仕事を与えたそうじゃ。臆病者の家臣は厳罰に処されてはたまらぬと、どんな些細なことでも逐一報告し、信玄殿が家中の様子を知るのに大いに役に立ったとのことじゃ。

向き・不向き、得意・不得意、好き・嫌いなど、人はさまざまであり十把一絡げで扱うことはできぬものじゃ。ある面では能力を発揮できぬとも、ある面では十二分に能力を発揮できることもある。なぜあいつはあんなに仕事ができんのだ、なぜあいつはあんなにやる気がないのだ、なぜあいつは・・・と「人のせい」にしていては、いつまでたっても良い組織は創れぬ。

人が能力を発揮できぬのは、その者に能力がないからではなく、その者に適した場所と仕事を与えておらぬからではないか、という面からも考えてみる必要があるのではないかの。

「人を用いるには、その長所を活かすべし。耳、目、口、鼻はそれぞれの能力を活かしているから役に立っている。鵜は水に入ってその能力が活かされ、鷹は空を飛んで能力が活かされる。同じように人もそれぞれ長所がある」と家康殿も言っておる。

人のせいにして人に指を指しているとき、人差し指以外に3本の指は己のほうを向いておる。リーダーたるもの、人に指を向ける前に人の3倍は己に出来ることを考えねばならぬのじゃ。

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