長谷川孝のブログマガジン

【武将】第7話 率先

「武田二十四将」と言われる有能な家臣団を率いて、風林火山の旗の下、その名を近隣諸国はおろか全国にまで轟かせた武田信玄殿。「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」は信玄殿の言葉だと伝わっておるが、彼の価値観を端的に表したものであろう。つまり「人こそすべて」ということじゃとわしは思うておる。

いくら堅固な城郭があっても人の心が離れ、裏切りが出たり、味方同士で争っていたりすれば守ることはかなわん。あっという間に攻め滅ぼされてしまう。だからこそ人心をよく掌握し、全員一丸となれるような組織をつくっておかねばならん。信玄殿はそのように考えておったに違いない。

では人心を掌握して全員一丸となれるように、信玄殿は何をされていたのか?まあ一言で済ますことはできんが、そのうちのひとつが「甲州法度之次第」という法令の布告じゃろう。

領民や家臣が守るべきことが定められた法令じゃが、ただ単に決めごとを無理やり守らせることによって人を動かそうとしたわけではない。それでは人の「動き」を掌握できても、「心」は掌握できん。

一話目で申したとおり、組織が一丸となるためには、「心」が一丸とならねばならんのじゃ。権力などによって人を押さえつけ言うことをきかせてもそこから大きな力は決して生まれはせん。

それで「甲州法度之次第」に戻るが、この法令には

「自分がもしこの法令に背くことがあれば誰でも訴えてよい」

という条項があり、信玄殿自ら率先して法令を遵守し、領民や家臣の手本となるよう努めたそうじゃ。

人の心を掌握しようと思う場合にまず必要なことは、己から率先して動くこと。人にやらせるだけでは誰も納得せん。誰もついてこん。経営者が誰よりも早く出社し、厠の掃除をしている組織は強いという話を聞くことがあるが、やはりそれぐらいでなくてはならん。

そしてその根底には己を例外と思わぬ、己をも罰することができる公明正大な心が必要じゃ。「自分はいい。経営者は許される。社員がやればいい」と思うその心がすでに人心を遠ざけておるのじゃ。

己がやらねば誰がやる。

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