長谷川孝のブログマガジン

【武将】第21話 欲と執着

貴殿は、自分の中で守り通している大事なものが何かおありか?

「義」、すなわち、人としてなすべき正しい行い。何でもござれの戦国の時代に、この「義」を一生涯貫き通し、強い組織を創り上げた上杉謙信殿の存在は、まるで暗闇に一筋の光を見るようじゃ。

その上杉謙信殿が遺したとされる「宝在心(宝は心に在り)」と題した家訓(全16ヶ条)があっての。その中に次の1ヶ条がある。

「心に欲なき時は義理を行う」

無欲であれば、道理にかなった正しい判断ができ、正しい行いができる、といったところじゃろう。

じゃが、何かをしたい、手に入れたい、という心は人が持つ自然な心じゃ。腹が減ったから何か食べたい、己を高めるために知識を得たい、寒いから服を着たい、すべて欲じゃ。生きておること自体、欲によって成り立っておると言っても良かろうて。

むかしのことじゃが、「仮面ライダーオーズ」という番組を嫡男と共にずっと見ておったんじゃがの、そのライダーの敵となる怪人が、人間の欲から生み出されるのじゃ。いや、子ども向け番組ながら考えさせられる物語じゃったわ。

・・・さて。わしは欲を否定はせぬ。むしろ欲が人を突き動かし、良い方向に導くこともあるのではないかの。

たとえばスポーツじゃが、勝ちたいと欲するから人は一所懸命鍛錬を積み重ねる。苦しゅうてもがんばる。じゃが・・・。

貴殿は、ゴジラこと松井選手が甲子園に出場したある試合で、5打席連続四球で敬遠されるという出来事があったのをご存知か?

塁上に走者がいない時も含め、立つ打席すべてにおいて敬遠じゃ。対戦高の監督は「代表高として負けるわけにはいかない。あくまでルールの範囲内でとった作戦であり、勝つための練習をしてきて、負けるための作戦を立てる監督はいない。間違ったことはしていない」とのちに語ったそうじゃ。

結果は確かにその作戦が功を奏してか、対戦高が1点差で勝利した。

じゃが、選手達は心の底から勝利を喜べたのかのぉ。野球を通じた人間形成が監督の指導理念だったそうじゃが、果たしてその理念どおりの作戦じゃったと言えるのかのぉ・・・。

欲が度を超えると「執着」になる。ひとつのことやものに心をとらわれて、そこから離れられなくなるのじゃ。そうなると視野が狭くなって周りが見えんようになる。

冒頭でお聞きした、自分の中で守り通している大事なもの。それを執着によって見失わぬよう、普段からよく自分に語りかけておかねばならんの。

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