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【武将】第28話 信任

前回お話した黒田如水殿を覚えておいでかの?彼は秀吉殿の天下統一に大きく貢献した参謀で、秀吉殿から「自分の次に天下を取る男」と恐れられるほどの能力の持ち主であったそうじゃ。

それを敏感に感じ取って身の危険を感じた如水殿は、秀吉殿が天下を取った後は、自ら望んで九州に知行地を得て、静かに暮らしておったが、秀吉殿の死、家康殿の台頭と、世の中がまた騒がしゅうなってくると血が騒ぎ出しおったのじゃろう。

中央でのいざこざ、関ヶ原の戦いに乗じて九州を平定、その勢力をもって関ヶ原の勝者に決戦を挑み、天下を狙おうとしたそうじゃ。

じゃが、関ヶ原の戦いがあまりにも早う決着がついてしもうたため、如水殿の目論見はあと一歩のところで頓挫したのじゃ。

天下を狙えるほどの実力をもった如水殿じゃったが、亡くなる前は家臣を大声で罵倒したり、辱めたりするようになり、それに耐えかねた家臣が如水殿の後嗣、長政殿に何とかしてくれと泣きつくようになったそうじゃ。

人間の末路とはこんなもので、さすがの黒田如水も重い病で気が狂うたか、あるいは死ぬるのが怖うなって頭がおかしゅうなったか・・・。

さにあらず。実はこれこそ如水殿の最後の大切な仕事だったのじゃ。その仕事とは事業承継じゃ。いつまでも如水殿を尊敬して、心を寄せる家臣がおっては、長政殿の元で家臣がひとつになれぬ。それゆえ家臣の心を己から引き離し、長政殿に寄せるように仕向けたのじゃ。

如水殿が己を醜く見せてまで家臣の心を後嗣に向けさせようとしたほど、事業承継はお家の一大事なのじゃ。下手をすると社員の心はバラバラになって、お家分裂という事態にもなりかねん。上杉家の御館の乱、そして秀吉殿こそ良い例じゃ。

事業承継でもっとも大切なことは「信じること」じゃ。譲ると決めたら後継ぎを信じ、社員を信じ、そしてそう決めた己を信じて、すべてを任せ、一切手出しも口出しもせぬ。そのような心持ちが必要じゃ。

こりゃ承継だけじゃのうて、人に任せるときすべてにおいて言えることじゃな。

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