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【武将】第43話 伝えること

今回は大坂の役のころの話じゃ。

西国から島津その他が大坂方に味方して、兵糧を積んだ船が数千艘馳せ上るとの噂がたったそうじゃ。
家康殿はその噂を耳にして使番を呼び
「大坂の木津と堺との間に船を停泊させるところがあるかどうか見て来い」
と命じられた。

使番が
「かしこまりました」
とすぐさま席を立とうとしたので家康殿は
「どこをどのように見てくるのか、分かっておるのか?」
と尋ねられた。

答えられずに沈黙している使番に家康殿は立腹して
「お前は何が分かってそのまま行こうとしているのだ。船を停泊させることについてもちゃんと見方があるのだ。船は入江などがないただの浜には停泊できぬ。いきなり浜に停泊したのでは、船はそのまま支えていることもできず、また乗るのにも不自由だ。こんなことを知らずに、何を目当てにして見るつもりなのか」
とよく言い聞かせてから偵察に出された。使番はそれを心得て偵察し、船を停泊しておくところがないことを家康殿に報告した。

家康殿は
「それならたとえ西国から島津その他が来るとしても、しばらく船を停泊しておくところはないな」
と判断されたとのことじゃ。

部下に指示をして仕事をしてもらう際に、あいまいな言葉で伝えていることはないかの?挙げ句、己の意図せざる結果が戻ってきて部下を責めたりしておられぬか?

家康殿のように、船が停泊できるような入江があるかどうか見て来て欲しい、と分かりやすく明確に説明をしておれば、部下は求められているやるべき仕事を理解できる。

されど、もしこの説明がなかったならば、使番は浜でも停泊できる場所と思い、家康殿にそのように報告していたやもしれぬ。結果、家康殿の最終判断、その後の戦略も誤ることになっておったであろうて。

これはつまり、停泊できる場所に関する認識が両者で異なっておるために生じるずれじゃな。仕事に限らず、認識の違いによってずれが生じることは多々あることじゃ。

このずれを埋められてこそ、相手に本当に伝えたと言えるのじゃ。ではずれを埋めるために大切なことは何じゃろうの?

まず大切なことは、伝える側が相手の目線で伝えることじゃ。つまり、相手の認識度合いを把握してそれに合わせてモノを申す、ということじゃな。

ただそれでもまだずれる可能性が残っておる。一方的にモノを申すだけでは、ずれが生じることは避けられぬ。最も大切なことは双方向の対話じゃ。

相手が分かっておるかどうかを確認して、相手がモノを申す有余を与えることじゃ。言うことばかりが伝えることではない。それと同じくらい聴くことも大事なのじゃ。

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