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【武将】第31話 褒める

加藤清正殿をご存知か?秀吉殿に幼きころから仕え各地を転戦、数々の武功を挙げ、のちに肥後一国、つまり今の熊本県を治める大名にまで出世した御仁じゃ。

清正殿と言えば賤ヶ岳七本槍のひとり、虎退治、あるいは石田三成殿や小西行長殿ら文治派との確執で有名じゃから、よほど武辺一辺倒の武骨な猪武者かと思いきや、実はそうではのうて、民からも部下からも慕われる人望溢れるリーダーで、今でも熊本県では清正公(せいしょこ)さんとして慕われておるそうじゃ。

なぜにそれほど慕われるのか。その理由の一端は次の話にあるのではないかの。

清正殿の部下に飯田覚兵衛という武勇にすぐれた武将がおっての、これが戦国屈指の槍の名手で、多くの戦で活躍しておった。清正殿の重臣として加藤家には無くてはならぬ存在の一人じゃった。

ただ、覚兵衛殿が清正殿亡きあとに語ったところによると、実は武士が嫌で何度も加藤家を去ろうと思っておったとのことじゃ。意外じゃのぉ。

「戦に出るたびに今日こそやめてやると思うが、帰陣したら間髪入れずに今回の戦働きについて褒められ、刀や陣羽織や感状をくだされた。それを見て周りが羨み、また褒めそやすものだから、やめるにやめられずここまできてしまった」
ということだそうじゃ。面白いのお。

ある時清正殿が厠に入っている折、以前日頃の心がけが良いと感じ、褒美を与えようと思って与えそびれていた者のことをふと思い出し、厠の中から家臣を呼び寄せ、その者に褒美を取らせるよう申し伝えた、という話も聞いたことがある。

とにかく清正殿は褒め上手であったようじゃ。どんな者でも褒められるとうれしいものじゃ。それが精神的な励みとなり、己の仕事への活力となるのじゃ。

褒める手段は別にカネやモノである必要はない。言葉で充分じゃ。人から褒められると人の脳はカネを受け取ったときと同じ部位が活性化するという研究結果も出ておるそうじゃ。

カネやモノは財政状態によって与えられぬときもあろう。されど褒めるのはいつでも“タダ”でできる。

褒めるのに必要な原資は、人の良いところを見ようとする、リーダーの姿勢じゃ。

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